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『刹那バースデイ』

桜の様に舞う粉雪が、外を銀世界に変えて行く。絶えず舞う白を見て、"あの日"を思い出す。
永遠を生きるアタシ達にとって、月日なんてどうでも良い事なのに。



『刹那、バースデイ』



紅茶色の暖炉、黒のテーブルとソファ、銀のパイプベッド。
必要最小限の物しか無い、色の無い殺風景な部屋。
普段は何がしかの声が聴こえるこの部屋も、
今夜だけは珍しく静寂に包まれていた。



藍色の長髪を持つ彼女は窓際に立ち、降り続く白をただ黙って見つめている。
翡翠色の美しい瞳は、白銀に色を塗り替えられた。

紅栗色の髪を持つ彼女はソファに座り、肩迄ある美しい髪に手櫛を入れながら、
ずっと藍色を観つめている。菫色の優しげな眼差しに、藍色の影が落ち、グラデーションがかかる。





『ゴーン…….、ゴーン……、ゴーン……』

古時計の鐘が鳴ると同時に、紅栗色は咲いながら言った。



「おめでとう」

「……何が……?」



言葉の意味が分からず、怪訝な顔をしているヨシを観て、芳野は更にクスクスと咲う。

紅い暖炉の火は、音を立て踊りながら、目の前の2人を観て口角を上げる。芳野はカレンダーを指差し、語る。



「2月28日、御誕生日。正確には2月29日、閏年だけどね」



彼女が何を言いたいのか、サッパリ分からない。
バウントには皆(みな)、"誕生日"等と言う言う"洒落た物"は無い。
"無い"というより、"知らなかった"という言い方の方が、半分正しいのかも知れない。
物心ついた時から、両親に気味悪がられ、出生について語られず、愛情なんて受けられ無かったんだから。

ーー其れに。不老不死のバウントにとって、自身の年齢、月日の流れ等、あって無い様な物なのだ。



『ガタタッ』雪風に、窓が揺れる。粉雪が、少しずつ乱暴になって行く。
変わり行く景色を眺めながら、ヨシは両眼を伏せ、ハァと溜息をついた。



「物心つく前に親に棄てられたんだ。

……今日よりもっと寒い、吹雪の日にね。

そんなアタシに誕生日なんて、気の利いたモンは無いよ。
ーー第一……。何で今日なんだよ?其れも、正確には2月29日って。
明日は3月だろ?何寝ボケた事言ってんだ」



いつも以上に眉間に皺を寄せ、不機嫌になる藍色に、紅栗色はそっと腰を上げ、向かう。

カツカツと、軽やかなヒール音が響く。



「ーー1年前の2月29日ね。私と貴女が、初めて心が通えた日なの。
今日よりうんと寒い、大雪の日だったわ……。
暗くて、とても静かな夜だったけど、凄く……暖かかったの。覚えてる?」



彼女は女性らしくしなやか指で、結露した窓に日付を刻む。色白の指先は悴(かじか)み、薄紅色に変わる。

「ーーシー……」悴んだ人差し指を、艶っぽい唇の上に充て、妖艶に咲う。
いつもの紅い口紅に、特別に差されたグロス。
その肉感的な唇は、何とも艶やかで。
ーーそう、息を潜めて、内緒話。だってアタシ達は、"共有"したからって。
菫に紅が反射した瞳が、アタシを離さない。その観詰めは、"あの夜"と全く同じ。

狡いだろ、そんなの、狡いよーー……。



ーー熱くて、甘かったな。



「……さぁ……?」



藍色は口角を上げ、また白銀に目を向ける。紅栗色は、美しく長い藍にそっと手櫛をかけ、
微熱を持つ頰に触れた。サラサラと流れ行く藍からは、紅栗と同じ、甘い百合の香り。



「……4年に1回しか無い、特別な日に触れ合えたの。ーーとっても素敵だと思わない?」

「…………」



多分彼女は、アタシが1番大好きな表情をしているのだろう。
菫色を少し伏せ、そこに紅を反射させ、穏やかに咲い、ほんの少しだけ口を開ける。
本当は今すぐにでも観たいけど、その表情は観たくても観れなかった。
観てしまったら、何もかもが込み上げて来てしまうから。



永遠を生きるバウントにとって、月日なんてどうでも良い事なのに。
彼女だけは人間の様に、その"どうでも良い事"を大切にしたがる。
閏年の事も昔、彼女から聞いた事があったが、
時が少しだけズレたからと言って、アタシ達の時計は最初から狂っているから。
「狂ってるアタシ達にとっては、一生関係無い事さ。心底下らない」と吐き捨てた。



その時の彼女は、少し寂しそうに笑い、「……そうよね」とだけ呟いた。
もう何年も前の出来事であるが、未だにあの笑みは思い出す。
色気の無いこの部屋に、桜色のカレンダーや、紅茶色の古時計を飾ったのは、彼女だった。
……何も、頼んでなんかいないのに。



永遠を生きるバウントに、誕生日、か。



窓に書かれた日付はもう消えていた。なんて儚いんだろう。
『キュッ、キュッ』2.29、筋肉質でしなやかな指で、日付を描(えが)く。

頰に添えられた手に、ゆっくりと力が加わる。翡翠と菫が交わった。



「"おめでとう"って言葉は、何かを成し遂げないと言って貰えないじゃない?
1年に1度、無事歳を重ねられた。……貴女が生きている限り、私は2月29日に"おめでとう"って、愛を囁くわ」



いつもより、より一層妖艶な、彼女の匂いがする。
フワフワと、百合とバニラと彼女自身が混ざった、アタシが大好きな匂い。
「…………」綻びそうになる口元を、キュッと噛み締める。
トクトクと、鼓動が跳ねる。熱い……。



「……あっそ」目を逸らし、ぶっきらぼうに答える藍色。
紅栗色はその様子にクスクスと笑いながら、ベッド付近にある戸棚に向かう。
戸棚の奥には、深紅の薔薇の花束があった。
その花束の中には、純白の封筒が入っている。
深い紅に穢れの無い白が、何とも映える。そんなの、いつ隠したんだよ……。
彼女が近付くに連れ、薔薇の香りが深くなる。



「ーー何……?」

「御誕生日プレゼント。私から、貴女への、ね」

「……花と手紙、ねぇ……」



古風と言うか、何と言うか。飾らない所もまた、彼女らしいか。
花束には、藍色のサテンリボン。……充分に足りている。でももう少しだけ、欲しい。

ーーだって今日は、誕生日だからーー……。



「ーーコレだけ?」

・・・・

「ーーコレと、もう1つ」



涼やかに咲うヨシに、芳野はそっと抱き着き、唇を重ねる。桜色の唇は、艶っぽい紅に変わる。深くて甘くて、熱かった……ーー。





「……出逢ってくれて、ありがとう」











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Author:黒絵
バウント篇萌えと色々創作サイト。
SSやイラスト等。

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